おじさんは、なかなか涙が止まらないわたしをソファーに座らせ、その横におじさんも腰を掛けた。
おじさんはわたしの背中を撫でてくれると「まさか、一花ちゃんが取引先のこの会社で働いていたなんてなぁ。最初は驚いたよ。一花ちゃんは、、、多分知っていたよね?」と言った。
わたしは応接室のテーブルの上に置いてある箱ティッシュから二枚ティッシュを引き抜くと、それで涙を拭きながら「はい。」と答えた。
「でも、、、どうして、わたしがここで働いていると、分かったんですか?」
「いやぁ、一花ちゃんには勝手なことをして申し訳ないと思ったんだが、先日一花ちゃんのご実家に伺わせてもらってね。お母さんに一花ちゃんが元気にしてるかどうか訊いたんだよ。」
「え、そうだったんですか?」
「うん。そしたら、大東で事務員として働いてると聞いてね。お母さんも心配されてたよ?"そんなにたくさん給料を貰ってるわけでもないのに、毎月仕送りしてくるんです。"って。」
わたしは俯きながら「母は、ずっと一人でわたしを育ててきてくれました。そのせいで無理をすることもたくさんあって、体調を崩してから時短でしか働けなくなってしまったんです。だから、少しでも、、、母に恩返しをしていきたくて。」と言った。
すると、おじさんは「そうかぁ、、、一花ちゃんらしいね。さすが、うちの息子が惚れた女性なだけある。」と呟くように言った。
おじさんはわたしの背中から手を離すと、自分の脚に肘をつき、わたしの顔を覗き込むようにして「一花ちゃん、うちの会社に来てくれないかい?」と切なげな表情を浮かべて言った。
「おじさんの会社は、大企業じゃないですか。わたしなんかが行っても、何のお役にも立てません、、、」
「そんなことはない。ここの社長から聞いたよ?"楠木さんは優秀な事務員だから、正直居なくなられたら困るんです。"って。」
「優秀だなんて、、、わたしは、ただ毎日自分がやるべき事をこなしているだけです。」
「一花ちゃん。それは当たり前なようで、当たり前じゃないんだよ?もっと自分に自信を持ちなさい。それから、、、」
おじさんはそう言うと、視線を落とし、少し淋しげな表情で「よく夢に出てくるんだよ、新が。」と言った。
「えっ、、、」
「それで、毎回同じ事を言うんだ。"一花を助けてくれ"って、わたしに必死に伝えてくるんだよ。」
おじさんのその言葉に再び涙が滲む。
新が、、、わたしを助けてくれって、、、?
わたし、新に心配かけちゃってるんだ、、、
「だから、わたしは一花ちゃんをずっと探してて、やっと見つけた。大切な息子の頼みを無視なんて出来ないからね。」
そう言うおじさんの瞳にも、薄っすらと涙が滲んでいた。



