冬の海から浮上する

○○


「まもなく一番乗り場に列車が到着します」


 スーツケースをガラガラ引きながら、空港行きの列車に乗り込む。


 指定された座席に座り、窓を眺めるとおばあちゃんがこちらに向かって手を振っていた。


 私はおばあちゃんにもらった飴を口の中に入れ、両手で振り返す。


「列車が出発します。座席を立たないでください」


 そんなアナウンスと共に列車が動き出す。


 おばあちゃんが見えなくなるまで手を振り続けた。


 列車は大きな音を立てながら山を抜ける。
そうすると私の左横に大きな川が現れた。


 ポケットからスマートフォンを取り出し、写真を撮る。


 私はそのついでに町で撮った写真を見返すことにした。


 写真のほとんどは毎日撮っていた海の写真だった。


 私は特に変わりのない海の写真を画面をスライドしてぼーっと見ていく。そしてある一枚の写真を見た時、スライドする指を止めた。


 それは私と芹が一緒に撮った唯一の写真だった。


 写真の中の私はとびっきりの笑顔で自分もこんな自分を見たことがない。


 私の横には芹が写っているはずだった。だけど、そこに芹の姿はなかった。消えていた。


 私は彼が居たはずの部分をそっと撫でる。


 それはまるで芹が初めから居なかったかのようだった。


それでも彼は私の中で生きていた。幽霊になってもどれだけ寂しくても懸命にこの世に存在した。


 カメラのアプリを起動し、内カメで写真を撮る。加工もスタンプも何もつけなかった。


「相変わらず、ひどい顔」


 写真にはぎこちない笑顔が写っていた。


 でも、その写真を消すことはなかった。


 家に帰ったら二枚の写真を部屋に飾ろう。


 一枚は芹と撮った写真。もう一枚は今さっき撮った写真。


 これは終わりではない。始まりだ。


 芹が好きだと言ってくれた自分を誇ってどんなに苦しくてもやっていくしかない。もう逃げない。


 スマートフォンのメッセージアプリの通知を全てもとに戻す。


 来年もあの町に行こう。




 次は逃げるのではない。芹に会いに行くのだ。
 




                END