S L S -病弱天然ちゃんはドSイケメンに溺愛される-

 春の嵐のような夜。白田は心臓外科の研究室に呼び出された。

 そこにいたのは、最近この病院に赴任してきた外科医――青山勇希(あおやま・ゆうき)。端正な顔立ちに穏やかな物腰。初日から看護師たちの話題をさらった、いわゆる“王子系イケメン医師”だった。白田の1つ先輩、黒川の1つ後輩だ。

「白田先生。少し、お話があります」

「……青山先生?な…なにか用ですか………?」

「あなたの心臓、そして“5年前の事故”について、です」

 その一言で、白田の呼吸が止まった。

「えっ。な、なんで……そ、そのことを……」

「調べました。あなたの記録には“不可解な急変”が何度もある。特に、5年前――あなたがまだ研修医だったころの“急性発作”。そのとき、執刀したのは――黒川悠真先生でしたね?」

 白田は口元を押さえた。心臓が、今にも破裂しそうなほど鳴っている。

 ――5年前、急な心停止で運ばれた自分を救ったのが、黒川だったこと。

 でもそのとき、なぜ彼がそこにいたのか。なぜ自分の病歴を詳細に知っていたのか。全部が、曖昧なままだった。

 青山はさらに続けた。

「そして黒川先生が、ある研究データを“もみ消した”という疑惑があります。もしそれが事実なら、あなたは“実験的な治療”を施された可能性がある」

「うそ……」

「僕はあなたを救いたいんです。白田先生。あなたの身体のために、真実を知るべきです」

 そのとき。

「――その必要はねぇ」

 低い声が研究室に響いた。

 黒川が、濡れたコートのまま扉の前に立っていた。

「お前、余計なこと言いすぎだ、青山!!」

「黒川先生……!」

 黒川はゆっくりと青山を睨みつけ、そして白田の方へ歩み寄った。

「俺が黙ってたのは、お前を守りたかったからだ。全部、俺が背負うから。……もう誰にも触らせねぇ」

 その言葉に、白田の目が大きく見開かれた。

 けれど、心の奥底には微かな不安が残った。

 彼は、私の命を救ったヒーロー?それとも――私の身体を“使った”人?