アラ還の、恋は野を越え山越え谷越えて

二人が出ていくと、すれ違うように紗依が着替えを持ってきてくれた。
「克くんは?」

何か元気がない。
「駐車場で待ってる」

なら早く戻らないと。
「何かあった?喧嘩でもした?」

「別に…」
別にって、顔じゃない。

「ねぇお母さんこそ匠さんと何かあった?」
隠しているつもりでもバレているのか、いつもながらよく気がつく娘である。

「別に、どうして?」
なにか言いにくいのか、もじもじしてる。
「ここに来る途中、気になることを聞いて…二股ってワードと匠さんの名前が…」
そう言うことだったんだ。
きっと、二股の相手が病院の誰かで、私を匠さんの部屋に入れたくない人。
それから匠さんの家族と仲良くしている私。
病院の誰かは結婚が出来ない人なんだろうか。
それでも目障りなのは間違いない。

「気にしなくても大丈夫。それより早く戻らないと克くんが待ってるんでしょ」
なるべく元気に答えてみた。

「退院してからもずっと一緒に住もうね。お父さんの代わりに克くんが住むから、また3人家族だね」
やっぱり気を遣わしてるな。
「ありがと」
やっぱり結婚はないな。
早いうちに住むところを考えないと。

「着替え、ありがと。克くんが待ってるんでしょ。
早く戻ってあげないと母嫌われちゃう」

「そんなことないよ」何て言いながら帰っていった。