アラ還の、恋は野を越え山越え谷越えて

~匠 said ~

部屋に戻ると由佳が起きていた。
「心配かけてごめんね。あと、この部屋は私には贅沢過ぎてもったいないから…相部屋で、せめて普通の個室にしてほしい」

親子して同じこと言ってる。
「ここなら俺も泊まれるし、仕事に行きやすいんだけど嫌?ダメかな?」
嫌とかダメかと聞かれれば断れないはず。それにそんなに長くかかることもないだろうし、患者の由佳も悪くない。

「ありがと。ほんとは今日、お願いしたいことがあったんだけど…」
俺も今日、『鈴木蓮』の話を聞いて思ったことがある。
由佳はご主人を亡くして一年足らず、以前もう結婚はしたくないと言っていた。俺も同じ気持ちだった。
でも、籍を入れるということの大切さを知ってしまった。
家族だと言うことの大切さを。家族ではない、中途半端な関係はダメなんだ。

「俺も話がある。思ったんだけど、一緒に住むのは先で良い」
ほんとはすぐにでも一緒に住みたいが紗依ちゃんが結婚してからでも遅くない。
とにかく早く家族にならないと。
「俺と結婚してほしい」
由佳は“ぽかーん”としている。
お互い結婚はしたくないと言っていたから。
気持ちだけではダメなんだ。
婚姻の確証がほしい。

「どうしたの?何かあった?」
まあそう思うよな。
お互い色々、面倒なことが嫌だと言っていた。
今でも思ってる。
でも、いざというとき駆けつけることができる立場でありたい。
「中途半端な関係でなくこの先一緒にいたいんだ。由佳のお願いは?」

「今は、やっぱりまだ良い…」
なにかお願いしたいことがあると言ってたのに、話しにくいことなのか、話してくれないとわからない。