アラ還の、恋は野を越え山越え谷越えて

元気なじいさんの手術は予定より早く終わった。
着替えて由佳のところに行くと部屋の前が騒がしい。

「どうか会長に早く特別室を開けてください」
由佳の部屋の前で騒いでるやつがいる。

「郁先生どうしたんですか」
一応病院内では姉でも先生だ。

「なんとかしてくださいよ。会長にあんな狭い部屋に入れておくなんて、怒られてしまいます」

郁の配慮で由佳の部屋を特別室にしてくれたんだ。
確かにその方が俺も出入りしやすいし...。

「今入ってる方にも、それ相当のお礼はさせていただきますから」
金で何とかしようとするんだ。

「…あの」
紗依ちゃんがでてきた。
今でてきてほしくはなかったけど、

「部屋、代わってもらえませんか?個室代はうちで持たせてもらいますから」
はぁ?
こいつ、何を勝手に話を進める?

「この部屋の患者は私の患者です。勝手に移動をさせないで下さい。匠先生の患者は一般の個室でなにか問題でも?」
郁先生カッコいい。

「全く問題ありません。もし不満なら転院をされても構いませんが。あとあまり騒がないでくださいね」

耳まで真っ赤にして怒って行ってしまった。
患者は大手企業の会長で、さっきの人は秘書のようだ。

「あの、こんな立派な部屋、支払うのが無理です。一般の個室で充分ですから」

「病院が決めた部屋だから追加はかからない。心配しなくても大丈夫」
それに何と言っても俺が出入りしやすいし…とは言えないが。

紗依ちゃんのスマホがバイブした。
「克くんが来てくれたみたい。ちょっと行ってきます」
いつもの紗依ちゃんに少し戻ってた。

「じゃ、私も行くわ」
ニヤニヤしながら郁先生が行ってしまった。

部屋に入ると、由佳は寝ていた。

今日一日バタバタしていたし、点滴を打ってるから腹は減らないか。俺は夕飯買ってきてこの部屋で食べて寝よ。
顔も見れたし、コンビニでも行くか。

財布だけ持って部屋をでた。