アラ還の、恋は野を越え山越え谷越えて

次の日、鈴木君は早くから病院にやって来た。
母親と顔を会わさないように由佳の病室に隠れてもらった。
また、看護師達が見ている。
どうみても由佳となら親子にしか見えないのに、噂好きにも程がある。

柏原さんの秘書から電話があった。
「今、娘さんご夫婦がお見えになりました」

電話を切ると同時に、鈴木君が部屋から飛び出した。
病室がどこかも知らないくせに。
部屋の前で待っている。
結局一緒に、鈴華さんの病室に急いだ。

部屋に入るなり、
「鈴華、痩せた? ごめん。無理に連れ回して…」
「蓮は悪くないよ。私がお願いしたんだから」
この部屋には俺も加藤さんも居るのに二人には見えてないようだ。
「ちゃんと食べて早く元気になって…」
「元気になったらまた誘ってくれる?」
俺たちが居るのに二人の世界に浸ってた。

そんなとき突然扉が開いた。
「どなた? 勝手に病室に入っているのは」
早っ!
母親の後ろに柏原さんがいた。
「病院で大きな声を出すんじゃない。わしも、鈴華の友達に会いたくて、来てしもうた」
柏原さんの車椅子を父親が押している。
「なかなかの男前じゃないか。この人が来て鈴華が元気になるんなら、めでたいことじゃないか。なあ先生、友達には副作用は無いですよね」

このじいさん、由佳に怪我をさせたことは気に入らないが、悪い人ではなさそうだ。
「無いと思いますよ。ちゃんと食べて早く元気になってもらわないと」

「ならなるべく鈴華の顔を見に来てやってください」
あのじいさんが頭を下げた。
そして娘に向かって「おまえもわがまま言って結婚したんだ。娘のことは言えんだろ」
カッカッカって、黄門さんのように笑って部屋から出ていった。
母親もばつが悪いか、じいさんについて部屋から出ていった。