アラ還の、恋は野を越え山越え谷越えて

~匠 said ~

由佳の様子がおかしい。
籍を入れるのを急ぎすぎたのかもしれないけど、付き合い始めの頃と違って、そこまで否定されるとは思わなかった。
看護師達の変な噂話も気にしないでと言いそびれたし、ゆっくり話もできなかった。
元嫁の陽子のことは話したことがあるから、疑ってないはずなのに。
いつも『何でも話さないとわからない』って、言ってるくせに、由佳は、何も話さないで自分で抱え込んでしまう。
ほんとに寝てしまった。
覗くと涙のあとが…、話してくれないとわからないから。

休みだけど、昨日のオペした元気なじいさんの様子でもみてくるか。

相変わらず元気で部屋の外まで声が聞こえてる。
「同じ病院にいるのに、会いに行くのがなぜ悪い!」

昨日の秘書があたふたしてる。
俺が部屋にはいると、ばつが悪そうにして、静かになった。
「元気そうですね。この調子なら事情聴取できそうですね。警察に連絡いれときます」

車椅子に乗ってどこかに行こうとしていたな。
しかもパジャマのままで。
「ところで、誰に会いに?」
今、『会いに行くのがなぜ悪い』とか言っていたよな。

「先生、『西園寺鈴華』の病室はどこかご存知ですか?」
また『西園寺鈴華?』

「私の孫なんですよ。見舞いに行く途中に事故をおこして…」

「事情聴取を受けてからね」
ぶつぶつ文句を言ってる。
さっさと受けて会いに行けば良いだけだろ。

「会長、そうしていただければ…」
この秘書も大変だ。
「まったく、さっさと警察を呼んでこい」
さすがのじいさんも孫には弱いようだ。

じいさんの名前は『柏原幸蔵』、『西園寺』ではない。
なら、あの母親の父親か?激しい口調がよくにてる。

このじいさんを使って鈴木蓮に会わせることはできないか?
孫からの頼みなら聞いてくれそうな気がする。

とりあえず、警察に連絡してみるか。