嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「なぜですか? 私は先生にはふさわしくないでしょうか。理由を聞くまで諦められません」

 ショックを受けたように声を詰まらせる女性。

(そうよね。勇気をもって告白したのに、ただ断られるだけじゃ納得いかないわよね)

 美琴は勝手に同情する。男性はどう理由を答えるのだろう。

「それは……」

(それは……?)

 男性の声に思わずごくりと唾を飲み込み、続きを聞こうと耳を澄ます。しかし、前のめりになりすぎたらしい。こちらの気配に気が付いたのか白衣の後姿が初めて振り返った。

(……しまった!)

 そのとき美琴はこの場に長居しすぎたことに気づいて焦る。
 全部自分のせいなのだが、バツが悪いにも程がある。もうこれは、なにも聞いていない顔をして立ち去るしかないだろう。
 しかし、こちらを向いた男性の顔を見て、美琴は目を見開いて固まる。

「……えっ」

 思わず零れた自らの声にハッとした美琴は、顔を強張らせたまま回れ右をして元来た道を戻る。最大限の速足で。

(なんで……なんであの人が……)
 
心臓がドクドク鳴っているのは、階段を慌てて上っているからだけではない。突然の再会に驚いたのだ。