嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

 衣類と一緒に出てきたのはエプロンだ。そういえば以前実家に行ったとき母に『安かったから買ってみたんだけど、かわいすぎちゃったから美琴にあげるわ』と持たされた記憶があった。しまい込んで存在を忘れていた。

 ふと、両親の顔が頭に浮かぶ。電話でやりとりはするものの、1年半前に法事で戻ったきり帰っていない。ふたりの結婚は美琴の家族には知らせない。そう遥臣には伝えてある。

(離婚前提の結婚なんて心配させちゃうだけだもんね)

 そんなことを考えながら、美琴は両手でエプロンをヒラヒラさせた。


 早々に自分の部屋の片付けが終わったので、マンション周辺を散策し買い出しをした。

 幼い頃に住んでいた成城や、アパートのあった荻窪とは違う赤坂エリアのアーバンな雰囲気に少々戸惑ったものの、わりと庶民的なスーパーをもありホッとした。

 夕刻、帰宅した美琴はキッチンに立つ。遥臣のために夕食を準備するためだ。
 これまではもやしやちくわなど安い食材を駆使した節約料理ばかり作ってきたが、これからはそうはいかないだろう。レシピサイトで一般的なメニューをさがして材料を買ってきた。