『見下してバカにしていた男の妻になるのは、今でも気にくわないか』

 たしかに美琴は『私はあなたを見下してバカにしていました』と言い放っていた。罪悪感に押しつぶされつつ、今の自分で役に立つのならと腹を括り、提案を受け入れる決心をした。

(そうはいっても早すぎない? 結婚決めて今日で三日目だよ?)

 遥臣は『美琴はなにもしなくていい』と言って知り合いの伝手で業者を手配した。女性スタッフによってすべての作業が行われ、本当にほとんど何もしないまま引っ越しは終了。

 長年住んだ部屋とお別れする感慨も持てないまま、気づいたらこのマンションのゲストルームが美琴の部屋になっていた。

(遥臣さんがこんなに引っ越しを急いだのは、自分の婚約者があんなアパートに住んでいるのは体裁が悪いからだよね)

 昨日まで住んでいたアパートの部屋が丸ごと入りそうな広い室内で、ひとり作業を進める。家主の遥臣は仕事で不在だから、他人の家に勝手に入り込んでいる感覚がしてなんだか落ち着かない。

「あれ、こんなの持ってたっけ」