遥臣は引かない。元々は望まない縁談さえ回避できればいいと考えていたが、想定より大事になってしまったので、この際本当に結婚してしまおうと判断したらしい。

 さらに遥臣は普段から激務でまともな生活ができていないから、身の回りの世話も頼みたいという。

『南田国際にいるのはあと一、二年かな。その間、妻役を務めてほしい。あくまで仕事としてとらえてくれればいい。君にしかできない価値のある仕事だ』

 唖然とする美琴に構わす、遥臣はどんどん話を進めていく。

 遥臣はこの話を受ければ妻役をこなす対価として給料を支払ってくれるという。結婚してしまえば智明からのアプローチはなくなる可能性が高い。実家への仕送りもできるし、精神的にも楽になる。離婚までにゆっくり次の仕事を探せばいいとまで言うのだから、美琴にとってかなりありがたい話だ。

『結婚も離婚も紙切れ一枚だ。俺は気にしない』

 遥臣は優しげな見た目に反してかなりドライな考えの持ち主らしい。でも、本当にそんなに簡単に結婚してしまっていいのだろうか。迷う美琴を決心させたのは皮肉な笑みを浮かべた彼の言葉だった。