『あそこまで有能で完璧な婚約者の存在を病院関係者に見せつけたら、その場しのぎじゃすまない。来週には病院中が君の噂でもちきりになるだろうな。もちろん好意的な方でね。そして俺は何度も聞かれるだろうね。“あの婚約者とはいつ結婚するんだ”って』

『そうでしょうか……』

『第一、陽菜ちゃんに会いに病院に通うんだろう。今日知り合ったドクターやスタッフに気づかれるかもしれない』

『陽菜ちゃんが退院するまでですし、通うといっても週に数回です。いつもの地味な格好でマスクもしますからバレません』

 婚約者のフリをする話を受けた時から、そのつもりだった。すると遥臣は呆れた顔をした。

『美琴は自分自身をよく分かっていないようだ』

 なにが分かっていないのかが分からないが、ようは、美琴は張り切りすぎて遥臣の婚約者として顔を売りすぎたということらしい。

(出しゃばりすぎたんだ。もっと遥臣さんのうしろで控えめにしておけばよかった)

 やるからには完璧にと思ったのだが、著しく方向性が違ったようだ。

『だ、だからといって結婚までする必要はないのでは』

『いや、結婚してしまえば、うるさい外野を一気に黙らせられる』