「……そう、だったんですか。たぶん父は見栄でそう言ったんだと思います」

 実際は篠宮家から見放され、母の親戚を頼って長野に引っ越さなければならなくなった。でも、父は平林家の家長として娘の婚約者の親に情けをかけられるのが耐えられなかったのだろう。

 どうやら遥臣は、美琴は篠宮家の庇護下で今も裕福な生活をしていると思っていたらしい。

「君が塾の講師を辞めて無職だと聞いても、生活に困らないから気まぐれに働いたり辞めたりしているだけだと思っていた」

「そんなわけないじゃないですか。職がないのは深刻な問題なんです……」

 脱力した美琴はこれまでの経緯をかいつまんで説明する。
 自分以外の家族が長野に住んでいて、働いて仕送りをしていたが二度職を失ったこと、智明に結婚を迫られていることまで半ばやけくそになって話した。

「篠宮智明はいつから君に求婚してるんだ?」

「遥臣さんとの婚約が解消されてからずっとです。ここ最近は特に連絡が多くて……顔を合わせたのは久々でした。偶然あそこにいたみたいですけど」

 今日智明と顔を合わせて再確認した。どんないい条件を出されても結婚は無理だ。