(たしかにボロアパートかもしれないけど、わざわざバカにしなくたってよくない?)

 実家が没落してからはひとりここで努力し、慎ましく生きてきたのだ。長く住んできたから愛着だってある。

 美琴はキッと遥臣を睨みつけた。

「本当に失礼ですね。あなたにとってはこんなところでも、私には大事な家なんです。身の丈にあった生活をしてなにが悪いんですか!」

 感情が高ぶり、一気に言い放つ。

「たしかに、昔私はあなたを見下してバカにしていました。気に入らないのもわかります。だからって、落ちぶれた私をからかってそんなに楽しいですか」

 肩で息をする美琴を遥臣は驚いた顔で見ている。

「……君のお父さんは会社を手放しても、篠宮家の援助を受けるから生活には困らないと言っていたはずだが」

 しばらくの沈黙のあと、車内に低い声が落ちた。

「えっ?」

「君の家が大変なことになったとき、俺の父が支援を申し出たら、そう言われて断られたと聞いている」

 今度は美琴が驚く番だった。当時、瀬戸家から支援の申し出があったなんて聞いたことがなかった。

(でも、あのころのお父さんなら言いそうかも)