嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「ああ、適当に誤魔化しておいたし、父にも何も言わないように言っておいたんだが……」

 どこか歯切れの悪い遥臣。でも、こちらも深く聞く必要はないだろう。
 とにかく婚約者のフリをするという役目は果たせた。この先陽菜の主治医である遥臣と顔を合わせる可能性はあるが稀だろうし、会ったとしても『幼馴染』として、適度な距離をとっておけばいい。陽菜が退院したら二度と会うこともない。

 いつのまにか車は美琴のアパートの前に着いていた。

「あ、ここです。ありがとうございました」

 停車を確認し、シートベルトを外しながらお礼を言う。しかし、なぜか返事がない。

「遥臣さん?」

「……本当にここなのか?」

 遥臣は眉間に皺を寄せ、美琴の住んでいるアパートを凝視している。

「そうですけど」

 ちゃんと住所を伝えカーナビの案内でここまできたのに、いったいなにが疑問なのだろう。不思議に思っていると遥臣は困惑した顔でこちらを見た。

「失礼な言い方かもしれないが、なんでこんなところに住んでいるんだ?」

 “こんなところ”という単語に美琴の頭の中で何かがブチっとちぎれた。