嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

(二度と着る機会なんてなさそうだけど……家に保管しておくにしてもクリーニングに出さなきゃいけないよね。いったい、いくらかかるのかしら)

 下世話な内容でこっそり頭を悩ます美琴。するとハンドルを握りながら遥臣が視線をよこした。

「お疲れさま。大変だったろう」

「正直に言うと、疲れました……」

 たくさんの人と会話し、院長夫妻や清香と対峙。ミッション達成だと思っていた矢先に遥臣の叔母に遭遇、極めつけは智明と鉢合わせ。さすがに疲労困憊だ。

(それにしても、あのとき遥臣さんが来てくれて本当に助かったな……)

 遥臣がとっさに婚約者のフリをして庇ってくれたおかげで、智明はすぐに帰ってくれた。もう連絡しないでくれるといいのだが『またね』と言っていたのが不気味だ。

 遥臣は智明のことには触れずにいてくれる。深入りするのが面倒なだけかもしれないが、今はその心遣いがありがたかった。

(でも、遥臣さんも疲れたのかな)

 車に乗ってから、遥臣の口数が少ない気がする。ずっとなにかを思案しているようだ。

 静かな車内に気詰まりを感じ、美琴は口を開いた。

「えぇと、理恵子おばさまは納得してくださったんですよね」