嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

 遥臣振り返ってこちらを見る。美琴がプルプルと左右に頭を振ると遥臣は智明に向き直った。

「とにかく、美琴は今も俺の婚約者です。諦めてください」

「ふーん、そう。納得いかないけど今日のところは帰るよ。美琴ちゃん、またね」

 大げさに肩を竦め去っていく智明を美琴は黙って見送ることしかできなかった。



「すみません、送っていただいて」

 美琴は遥臣が運転する車の助手席に座っていた。いろいろありすぎて疲れ果て、送るという彼の申し出に甘えることにしたのだ。

「いや、構わないよ。最初からそのつもりだったから」

 遥臣の愛車は静かに夜の道を滑っていく。時折差し込む街の明かりが彼の整った横顔に陰影をつける。スーツ姿もあいまって、さながら高級車のCMを見ているかのよう。

 一方美琴もドレス姿のままだ。てっきり一式レンタルだと思っていたのに、すべて遥臣が手配し購入したものだったらしい。クリーニングして返すと申し出たら、返されても困るし今回の礼として受け取ってほしいと言われてしまった。