嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

 理恵子の登場は想定外だったが、美琴の記憶では彼女は気さくで優しい人だ。甥をかわいがっていたから、遥臣がきちんと事情を話せば協力してくれるだろう。

(さて、そろそろいいかな)

 頃合いを見計らいパウダールームから出た美琴は、会場に足を向ける。

 しかし、数歩歩いたところで視界に入った人影に息をのんだ。

(……なんで、智明さんがここにいるの?)

 そこに立っていたのは篠宮智明。篠宮家の現当主の次男で美琴のはとこ、そしてこれまで何度も美琴に求婚している男性だ。

 智明は美琴を見つけ笑みを浮かべると、ゆっくり近づいてくる。蛇がするするとこちらに寄ってくるようなゾワッとした感覚がして、すぐに立ち去りたい衝動にかられるが逃げ出すわけにもいかなかった。

「美琴ちゃん、久しぶり」

 祖母の法事以来だから実際に顔を見るのは1年半ぶりくらいだろうか。

 ひょろりとした痩せた体形で神経質そうな顔立ち。身に着けているフォーマルスーツも靴も腕時計も、すべて高級ブランド品だろう。育ちと羽振りの良さが感じられる。

 しかし、美琴はどうしてもこの人が好きになれない。