嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

(……すごい、本当に荒業であっさりご夫妻を納得させた)

 美琴は心の中で遥臣に賞賛を贈る。しかし、いまだに遥臣に緩く抱き込まれたままなのはなぜだろう。
 振り払うわけにもいかず、ナチュラルに抜け出そうとしていると、清香と目が合う。彼女は恨みの籠った目つきでキッとこちらを睨みつけてきた。

(無理もないわよね。ずっと狙っていた相手の横に我が物顔した婚約者が現れたんだもの)

 しかも自分はこの場限りの婚約者で、意図的に彼女を騙しているのだ。

 無言で背を向け、足早に去る清香の後姿に美琴は罪悪感を覚えた。


(そろそろ顔が……表情筋が死ぬ……)

 パーティも後半にさしかかった頃、美琴はさりげなく両手で頬を押さえた。
 作り笑顔をし続け、顔面の筋肉がおかしくなりそうだ。

「美琴、疲れた?」

 遥臣がこちらを見て小さく笑う。

「はい……」

 主に先ほど院長たちの前でしたあなたの所業のせいですが、と思いながら美琴は正直に頷く。
 なぜかあのあとから遥臣に名前を呼び捨てにされるようになっていたが、ふたりの親密さをアピールするためなのだろう。もう気にしないことにした。