嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「平林美琴です。この度は南田国際病院の30周年、おめでとうございます」

 院長は「ありがとう」と頷いたあと、値踏みするように美琴を見た。

「……瀬戸先生に聞いたが、平林さんは一般家庭出身とか」

「はい」

 美琴は素直に答える。今回婚約者を演じるにあたり、自分の祖母が篠宮家出身であることや、実家が事業を営んでいた過去は隠すよう頼んでいた。

 遥臣の婚約者を演じるのはこの数時間だけ。実家の事情にわざわざ触れる必要はない。

「こんなことを言うのは悪いが、一般の女性に瀬戸グループの将来の経営者の妻は難しいのではないか? その点、清香は院長秘書として私のそばで学んでいる」

 低い声で否定され、美琴はひやりとする。ここで院長に受け入れてもらえないと、自分がここに来た意味がなくなる。

「それは……」

 口を開きかけたそのとき、グイッと肩を引き寄せられた。遥臣だ。

「えっ」

 驚いて遥臣の顔を見上げると、彼は真剣な表情を浮かべていた。

「一般家庭だろうと、上流家庭だろうと関係ありません。僕は美琴自身の人柄に惹かれ、妻にしたいと思ったんです」
 遥臣は長い腕で美琴を守るように抱き込み、さらに続ける。