嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「先月号の山海大学と医療機器メーカーと連携して進めているカテーテル治療技術向上のお話、私のような素人でもよく理解できました」

　すると岸谷はパッと顔を明るくする。

「そうか！　あれは一般の読者も多く読む雑誌だからかみ砕いて説明しろと編集者に言われて大変だったんだよ。しかし、平林さんは勉強熱心で感心だな！」

「いえ、医者の妻になる人間として、少しでも理解を深めておきたかっただけです」

　あらかた嘘ではない。遥臣の婚約者を演じるにあたり、美琴は、この数日で南田国際病院関連の情報を頭に叩き込んでいた。

　婚約者の勤務先のことを理解していないのも不自然だと思ったし、無知で遥臣に恥をかかせるのも嫌だった。引き受けるからには立派にこなしてやろうという意地もあった。

　所属医師の専攻や経歴、メディアへの露出、さらに図書館で各種医療雑誌に関連記事がないかバックナンバー含めて読み込んだ。さっそくその成果が出たらしい。

「瀬戸先生、いい女性を捕まえたな！」

　記事を褒められ機嫌の良くなった岸谷は、先ほどより強く遥臣の背中を叩いた。

「……はい、ありがとうございます。僕にはもったいない女性です」