嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「ああでも、パーティーで出席者に『あなたのレベルは低い』なんて言われたら俺もちょっと困るけどね」

 楽しそうな声色が美琴の胸を軋ませる。

(ああ、やっぱり遥臣さんは落ちぶれた私をからかいたいんだ)

 美琴の脳裏に浮かぶのは最後に遥臣に会った日の出来事だった。

 平林家が没落する少し前、遥臣に誘われて彼の通う大学の学園祭を訪れたときのことだ。
 美琴は行く先々で彼の友人たちに婚約者として紹介されたのだが、遥臣が離れたタイミングで、ひとりの女子学生に突っかかれた。

『親が決めた婚約者なんて時代遅れよ。自由に恋愛もできなくて瀬戸くんがかわいそうだわ』

 きっと彼女は遥臣に想いを寄せていたのだろう。その表情には嫉妬が滲んでいた。
 それに対して美琴は何の迷いもなく、笑顔で返した。

『あら、むしろ私の方が遥臣さんに合わせてあげているくらいなのに。そんなに悔しいのなら、あなたも私と同じレベルまで上がればいいのでは?』

 この発言が本心だったのだから恐ろしい。タイムマシーンに乗って自分の口を塞ぎにいきたい。数ある黒歴史の中でも突出してイタイ思い出だ。しかも彼女とのやりとりはしっかり遥臣に見られていた。