嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「俺の婚約者になってくれないか」

「婚約者……」

 言っている意味が分からず、首を傾げる。これも嫌味なのだろうか。だとしたらわかりずらい。

「……えぇと、私たちの婚約はとっくに解消されてますよね」

「そうだな、ちゃんと説明する」

 遥臣は落ち着いた様子で、事情を話し始めた。

 研修医を経たあと、実家が経営する病院や大学病院で勤務し、脳外科の専攻医となった遥臣は、USMLEというアメリカの医師国家試験をパスし、二年ほどロサンゼルスの病院で勤務していた。帰国して南田国際病院に入職したのは去年のこと。

 遥臣に告白していた女性は、南田国際病院の院長の娘で、前々からアプローチされているらしい。さらに院長からも娘と結婚しないかと勧められているという。遥臣と娘が結婚すれば、瀬戸グループとのパイプが強固になり病院の経営にプラスになると考えているようだ。

 院長の娘としては満を持しての告白だったのだろう。遥臣は断ったものの、理由ははっきり告げないままあの場を後にした。彼女は納得していない様子だったという。