嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「それにしても、君も趣味が悪いね、盗み聞きなんて」

「えっ」

 手元が狂い、ガチャン、とナイフが皿にぶつかる耳ざわりな音がした。

 目を瞬かせて遥臣を見ると、彼は人の悪い笑みを浮かべている。

「この前、病院の裏手にいただろう? 逃げられてしまったけど、すぐに君ってわかったよ」

(バレてた……!)

 気付かれていないと高を括っていたが、思い違いだったようだ。ただでさえ気まずいのに、居たたまれなさで気がおかしくなりそうだ。

 美琴はフォークとナイフを置いて頭を下げる。

「すみません、迷ってあそこに出てしまって、聞くつもりは無かったんですけど」

 途中から聞く気満々だったことは伏せて、とにかく謝罪する。

「気にしなくていいよ。それより美琴さんは、あの時の会話をぜんぶ聞いてたんだろう?」

「……はい」

 いまさら誤魔化すのもおかしいと思い正直に頷く。すると遥臣がテーブルの向こうで身を乗りだしてきた。

「だったら話が早い。美琴さん、お願いがあるんだ」

「お願い……ですか」

 遥臣の微笑みに妙な圧を感じ、曖昧な反応しかできない美琴は、彼の続けた言葉にさらに困惑した。