嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「美琴さんにはグレードが低かったか?」

 なんでもないような言い方が美琴の胸を抉る

(……そういうことか、遥臣さんがここに私を誘った理由)

 彼は実家が没落した美琴が、今はこんな高級レストランで食事をする余裕なんてないのをわかっていてわざと連れてきたのだ。昔の憂さを晴らすために。

(でも、仕方ない……ぜんぶ私が悪かったんだから)

 美琴はずっと婚約者の遥臣を見下していて、態度にも出してきた。彼に恨まれていても文句は言えないのだ。

 婚約者だったときは丁寧だった遥臣の口調が、くだけているのもその証拠だろう。

 気が済むのなら、どんな仕打ちも嫌味も甘んじて受けよう。そう決めて、美琴は運ばれてきた前菜を口に運んだ。

「それで、陽菜ちゃんとはどういう関係?」

「前に勤めていた塾の生徒だったんです」

「そうなんだ。今仕事はしていないって言ってたけど」

「はい、辞めてしまいました」

 身構えまくった美琴は、振られた話に答えるだけでうまく会話を広げることができない。
 気詰まりな空気の中食事が進んでいく。せめて久しぶりに食べる牛肉を味わおうと、目の前のステーキにナイフを入れた時だった。