嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「だって本当のことじゃん。前に彼氏いないって言ってたよね」

(その通りだけど、余計なこと話さなければよかった……!)

 ワタワタする美琴を見て、遥臣は「へぇ」と少し意外そうな声を出した。

「それはちょうどいいな。積もる話をゆっくりできそうだ」

 口の端を上げる遥臣。美琴は久しぶりに彼の『胡散臭い笑顔』を見た気がした。



「急だったから、近場で選んでしまったけれど、味はいいから」

「……はい」

 遥臣の言葉に美琴は小さく頷く。
 彼に指定された待ち合わせ場所は病院からほど近い高級ホテルだった。
 上層階にあるフレンチレストランの窓際の席に通されたものの、美琴は落ち着かない。

(断り切れなくて来ちゃったけど、服装、これで大丈夫なのかな?)

 昔はこの手の店に来るときは、ブランドもののスーツやワンピースにジュエリーを合わせていたが、今日は量販店で買ったベーシックなデザインのサマーニットとロングスカート。もちろんアクセサリーなど身に着けていない。

 戸惑いが伝わったのか、遥臣は首を傾げる。彼は薄手のジャケットを羽織ったシンプルスタイルでこの店の雰囲気に違和感なく溶け込んでいた。