嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「陽菜ちゃん、勉強は無理のない範囲でしっかりやっていこう。そのほかでも私が力になれることがあったら言ってね」

「えー、急に熱くなってどうしたの?」

 おどける陽菜の手をキュッと握って、明るく笑ってみせる。

「とにかく、なんでも相談にのるからね」

「……うん、わかった」

 ありがと、と照れたように返す陽菜の表情からは、先ほどあった寂しさは消えていた。

「さーて、そろそろデイルームに行こうか」

 美琴がパイプ椅子から腰を浮かしたその時だった。

「陽菜ちゃん、調子はどう?」

 優しげな声が聞こえ、そちらに目をやった美琴は息をのんだ。

 病室の入口に手をかけて立っている白衣姿の男性は、美琴の元婚約者、瀬戸遥臣だった。

(なんで遥臣さんが陽菜ちゃんのところに?……まさか)

「あ、瀬戸先生!」

 声を弾ませる陽菜とは対照的に、美琴は気まずさに押し黙り目を逸らす。
 そんな美琴に構わず彼は長い脚でこちらに近づいてきた。

「他の子の様子を見にきたから寄ってみたんだ。今日は眩暈とか起きてない?」

「大丈夫でーす。それよりみこっち!」

 陽菜は元気よく返事をしたあと、勢いよく美琴に向き直った。