「じゃあ、これの活用の種類は?」

 平林(ひらばやし)美琴がペンでテキストの文字を指すと、向かいに座る少女は軽く首を傾げた。

「えーと、上一段活用?」

「正解、さすがだね。じゃあこっちは?」

 日差しが注ぐ病院内のデイルームで美琴は横沢陽菜(よこざわひな)に勉強を教えていた。その後もいくつか問題を出していったが、陽菜は難なく正解していく。

「文法の基礎はばっちりだね。次は応用問題をやろう。でも今日はそろそろ終わりにしようか」

 ここに座ってからそろそろ三十分が経つ。テキストを片付け始める美琴に陽菜はつまらなそうな声を出した。

「えー、もう終わり? もっと進めてたいのに」

「長い時間は負担になるからダメって、主治医の先生に言われてるんでしょう? また来るからね」

 美琴が優しく諭すと、陽菜は「はーい」と素直に返事をした。

 陽菜は現在中学二年生。二週間前からここ南田国際病院(みなみだこくさいびょういん)に入院している。
 脳の血管が細くなってしまう病気にかかっており、入院し投薬で病状を安定させたあと、血流を回復する手術を受ける予定だという。