嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

 数日後、美琴は陽菜の病室を訪ねた。小児病棟のふたり部屋だが、同部屋だった子が先日無事退院し、今は陽菜ひとりになっている。

 中を覗くと先客がいた。

「こんにちは。今日は早く見えられたんですね」
 声をかけると、ベッドの脇の椅子に座っていた陽菜の父はこちらを見て立ちあがる。

「平林先生こんにちは。今日は午後休みを取ってきたんです。ああ、今、椅子を出しますので」

 出されたパイプ椅子にお礼を言って腰掛ける。
 陽菜の父は一流企業で管理職をしているらしい。母親は陽菜が幼い頃に亡くなっており、彼は陽菜の祖母の手を借りながら陽菜を育ててきたそうだ。最愛の娘が入院、しかも脳の病気なんて心配でしかたないだろう。

「そうですか。陽菜ちゃん、今日はパパがずっといてくれて良かったね」

「別に、パパと話していても面白くないんだけどな」

 ベッドの上で上半身を起こした陽菜は口を尖らせる。それでもやはり嬉しそうだ。

「これから授業ですよね。……今更ですが、陽菜に勉強を教えてやってほしいなんて無理なお願いをしてしまいすみません。ご迷惑ではなかったでしょうか」

 陽菜の父は真面目そうな顔つきを曇らせる。