嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

　確かに彼の言う通り、妹は実家から長野の大学に通っていて、弟も受験を控えている。両親も必死で働いているが、これからますますお金がかかることは間違いない。

「でも……」

『もちろん美琴ちゃんにも、昔みたいに贅沢な暮らしをさせてあげる』

　いつものように一方的に話したあと『また掛けるから』と言って智明は電話を切った。

「はぁ……」

　スマートフォンを持ったまま美琴は深い溜息をつく。いつもは聞き流す智明の言葉が今日はやけに心に重くのしかかる。

　自分は今更贅沢な暮らしがしたいなんて思っていない。でも、彼と結婚すれば妹と弟は勉強に集中できるし、両親に楽をさせてあげられる。

　もしかしたら、それが一番いいのかもしれない――そうボンヤリ考えたところでハッとする。

「違うでしょ。お金目当てで好きでもない相手と結婚するなんておかしいし、誰かの力に頼ったら昔と同じじゃない」

　就職先が決まらないからって弱気になっちゃだめ。美琴は頭を左右に振って自分に言い聞かせた。