嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

 美琴は努めて取り繕って卒ない受け答えをする。智明に職を失ったと知られたくなかったのだ。

 すると、智明の声がやけに柔らかくなった。

『ね、美琴ちゃん。仕事もいいけど、そろそろ僕との結婚を本気で考えてくれないかな』

(まただ……)

 遥臣との婚約が解消されてから、美琴はこうして智明から何度も求婚されてきた。
 しかし、勉強や仕事を理由に断り続けている。

 美琴はものごごろ着いた時から智明が苦手だ。こちらを見る舐めるような視線に恐怖を覚えてしまう。

 子供の頃はキッパリ『智明さん嫌い、近寄らないで』と拒否できたが、さすがに今そんなことは言えない。

「お気持ちはありがたいのですが、智明さんにはふさわしい女性がいるのでは」

 没落した家の娘に用はないだろう。いつもお断りしているのだが、なぜだが諦めてくれない。
 例のごとく今日も引き下がらなかった。

『僕は君がいいんだ。美琴ちゃん、来年弟さんが大学に入ったら妹さんも合わせてふたりも大学生になるだろう? 金銭的に実家は大変なんじゃないか。僕と結婚したら全部負担するし、おじさんもおばさんも田舎でみじめな生活しないですむようにしてあげるよ』