嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

 刃物に突進していく女を目の当りにしたら、誰だって驚く。しかも傷まで負う始末だ。

 一方、警備員ふたりに拘束された智明はうろたえた様子で『血……僕が、美琴ちゃんを傷つけた』と繰り返していた。

 これまでの行動も、刃物を持ち出したのも智明は明らかに異常だ。思い出しても背筋が凍る。

(今度清香さんにお礼を言わなきゃ。本当に助かった)

 駐車場で美琴と智明が話しているのを見かけた清香が様子がおかしいと直感し、警備員を呼んでくれたようだ。

「それにしても、美琴ちゃんずいぶん変わったわね。昔は自分が一番よ! って感じのお嬢様だったけど」

「まったくもってその通りです」

 理恵子の言葉に美琴は苦笑する。

「ふふ、でも、今の美琴ちゃんはあの頃よりぜんぜんいい女よ。さあ、これで大丈夫!……かわいそうに、怖かったわね」
 処置が終わり、理恵子が傷の無い方の手にそっと触れた。

 その温かさに初めて自分がずっと手を握り込んでいたことに気づく。美琴は緊張と恐怖で強張っていた体の力を意識的に緩めた。
「……はい」

 怖かった。あのとき遥臣が来てくれなかったら、身がすくんで無理やり連れていかれていたかもしれない。