嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

「どんなに金があろうと、いい暮らしができようと美琴はお前のものにだけには絶対ならない。子どもじゃないんだ。いい加減理解しろ」

 自分の気持ちを完全に代弁してくれている遥臣の声を聞きながら美琴はさらに離れようと思った。しかし悲鳴のような声が聞こえて足が止まる。

「うるさい、うるさい! 僕は美琴ちゃんと結婚するんだ!」

 智明が遥臣に近づきながらスーツのポケットからサバイバルナイフを取り出し、刃を露出させ振りかぶった。
 その鈍い光に美琴は息をのむ。

(まさか、ナイフまで持っていたなんて)

「遥臣さん、逃げて!」

 なんの迷いもなかった。地面を蹴り、体を翻した美琴は遥臣の横をすり抜け、智明に向かって突進する。

「美琴ちゃん? なんで……っ」

「いい加減にして! もう、私の前に現れないで!」

 自分のせいで遥臣が傷つくなんて死んでも嫌だ。

 美琴は夢中で智明のナイフを持つ手につかみかかる。
 一瞬もみ合いになったあと、手の甲にスッと冷たい感覚がした。痛みはないが、じわりと血が滲んでいく。

「……っ」

「美琴!」