嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

 遥臣のマンションに引っ越したその日、彼は婚姻届を出したと言っていた。事実でないとしたら、美琴は彼の妻になったわけではない。

(でも、なんで遥臣さんはわざわざそんなことを)

 混乱と共に胸が苦しくなってくる。そんな美琴に智明は憐みの視線を向けた。

「そうか、君は騙されていたのか……かわいそうに。きっとあの医者に利用されていただけなんだよ。安心して? 僕が助けてあげる。だから結婚しよう」

 美琴がショックで沈黙しているのを受け入れられたと捉えたのか、智明は上機嫌で続ける。

「ああ、本当によかった。ずっと美琴ちゃんを守ってきたのは僕なのに、急にあいつが出てきて頭にきてたんだ」

 智明に守ってもらった覚えはない。美琴は思わず智明を睨む。しかし、彼の口は止まらない。

「塾の仕事も辞めてよかっただろう? アパートに帰ってくるのが毎日遅いから心配だったんだ。睡眠不足で朝はいつも『眠いなぁ』ってかわいい声でぼやいてたの知ってるよ」

「知ってるって……」

 心臓の裏が氷をあてられたように冷えていく。嫌な予感が止まらない。

「……まさか、智明さん」