嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして

 喉に張り付いていた言葉をなんとか発する。

 すると、智明は笑顔のまま続ける。

「電話したけれど、出てもらえなかったから。避けられていると思って」

 たしかに少し前に智明からの着信があった。避けていたのはたしかだが、あれ以来途絶えていたのであまり気にしていなかったし、遥臣にも伝えそびれたままだった。

「迎えにきたんだ。美琴ちゃん、僕と結婚しよう」

「なにを言ってるんですか、私はもう結婚してます」

 いまだに自分との結婚を考えている智明の思考回路が理解できず美琴は硬い声を出す。戻ってきたのは思いがけない言葉だった。

「結婚してないの知ってるよ。婚姻届、出してないよね」

「え……?」

「ちょっと調べさせたら、君は平林姓のままだったよ。……あれ、美琴ちゃん、知らなかったの?」

 唖然とする美琴を見て、智明はわざとらしく首を傾げた。

「嘘、ですよね」

「いやだな、本当だよ。すぐバレる嘘なんてつかない」

 智明は余裕の表情で美琴の反論を一蹴した。

 たしかに美琴自身が戸籍を確認すればすぐわかる。智明がどういう方法で調べさせたかは聞きたくないけれど、本当かもしれない。