やばい、きつい。
 そう思ったらゴトッという音が耳に鳴り響いた。
 あ、携帯落としてしまった。拾わないといけない。
 やばい。
 めまいがし、慌てて私はしゃがんだ。
 治れ、めまい。治れ、めまい。治れ、めまい。そう呪文を唱えるように何度も心の中で呟く。
 
「古川さん大丈夫?」
 
 誰……?とりあえず返事しないと。
 そう思った私は返事をする。

「大丈夫です」
「次はー次は──駅」

 あ、降りないと。
 私は立ち上がりドアの方に向かった。

「そんな身体じゃまともに歩けないでしょ」
「え、」
 
 次の瞬間ふわっと身体が浮いた。
 え、どういうことだと困惑しながら周りをキョロキョロするとようやく自分に今何が起こっているかということが理解できた。
 どうやら私は誰かにお姫様抱っこをされているみたいだ。
 もちろんお姫様抱っこされているということは注目を浴びるという訳で私は恥ずかしさのあまりに目を閉じた。
 
「このベンチに座れる?」

 と言われた。 

「あ、はい」

 顔をチラリと見るとそこには私が嫌いな加瀬冬架がいた。
 え……。
 私は一瞬フリーズした。
 ま、まさか私さっき加瀬冬架にお姫様抱っこされたの……?
 頭を一度整理し私は加瀬冬架に訊ねる。
 
「あの、貴方がここまで連れてきてくれたんですか?」
「うん、俺が連れてきたよ。古川さんキツそうだったから」

 はぁぁー。私は何てことを!加瀬冬架にお姫様抱っこされるなんて!
 そう思いながらも冷静に考えた。
 一応ここまで運んでもらったんだからお礼は言わないといけない。

「ありがとうございます」
「全然いいよ」

 ってあれ?携帯は?あ、さっき落とした時拾ってない……。  
 それに気がついた時はもう既に遅かった。
 ガバッ
 私は急いで立ち上がった。

「古川さん、まだ安静にしとかないと」
「さっき乗っていた電車に携帯落としたみたいで」
「あ、この携帯?」

 そう言われ見ると加瀬冬架の手の中には私の携帯があった。

「あ、それ私の携帯っ」

 私が携帯を取ろうとすると加瀬冬架は携帯を上に上げた。
 え、どうしてくれないの?そう疑問だけが私の頭に残る。

「あの、渡してくれませんか?」
「古川さん、俺のこと絶対腹黒いって思っているの?しかも隣のクラスの中谷のこと好きなんだ」

 頭がサーッとなった。
 何で加瀬冬架がそんなこと知ってるのか私は必死に考える。
 私は頭をフル回転した。
 私が唯一そう書いているのはXだけだ。
 もしかして見られた?

「ははっ」

 なんで笑うのと思いながらも私はじっと加瀬冬架を見つめた。

「どうやらその反応から当たりみたいだね。あーあ俺が腹黒いの古川さんにバレてたか」

 加瀬冬架はニヤリと今まで見たことのない顔でこちらを見てきた。
 ヒヤリとした。何が起こっているのだろう。頭が追い付かなかった。
 あの加瀬冬架が?あの加瀬冬架がまさか本当に腹黒いだなんて。あり得るはずなんてないだろうと半信笑いながら書いた「私のクラスにいる皆に紳士と言われている白馬の王子様は絶対腹黒い」が本当に当たりだなんて。

「もしかして私の携帯見たの?」

 私は震えながらも訊いた。

「見たっていうか開かれていたから少し見ただけ」
「それを見たっていうんじゃ」
「ってかさ、古川さん俺のこと嫌いでしょ?毎回何て言うか俺に近づきたくないオーラあったし、実際Xで俺のこと悪く書いてたし……。何だっけ?白馬の王子様?」

 きっと今、私は笑顔がひきつっているだろう。まさか私のからだの一部だと言ってもいいXの書き込みがバレたなんて。
 どうしたらいいか分からなくなり固まった。