「それ持つよ」
「あ、ありがとう。加瀬くん」
「いつでも言ってね。手、貸すから」
「え、」

 あーあ。またあの子も加瀬冬架(かせとうか)という奴に恋に落ちた。他人が見ても分かるぐらいに顔、赤く染めちゃって。
 横目でチラリと見た。
 これで何人目だろう。ていうか、これで何人、加瀬冬架に恋を落ちたのだろう。 
 本当、白馬の王子様って感じだ。顔もイケメンだし。
 でも私は加瀬冬架があまり好きじゃない。というか嫌いだ。
 皆に笑顔でニコニコ振る舞って。八方美人って感じがする。
 私は携帯を開いてxに書き込んだ。
 「私のクラスにいる皆に紳士と言われている白馬の王子様は絶対腹黒い」
 よし。投稿

「古川さん、ちょっと手伝ってくれない?」
「分かった!」

 結局のところ私も八方美人なんだけどね。

 

 小さい時両親から「頼られる人間になりなさい」といつも言われていた。だから小さい時から私は八方美人で、皆に好かれる、頼られる人にならなければいけないという気持ちがあった。だから小さい時から勉強も頑張ったし、進んで学級委員長とかも立候補した。でもそんな自分に呆れている自分もいた。だから加瀬冬架が嫌いなのかもしれない。自分の性格に少し似ているから。
 私は小さいときからそのまんま。仮面をかぶって生きている。

 

 はぁ、運ぶの疲れたな。本当、私はバカだ。そう後悔しながら席に座る。
 八方美人というのもあって高校生に入ってからも頼んだら何でもしてくれるというイメージが貼られてよく手伝いをお願いされるようになって。
 何で私は断れないんだろうか。

「本当、冬架くんイケメンだよね!」
「まじ分かる!!紳士だよね!」
「うん!」

 また、加瀬冬架のこと話している。加瀬冬架のどこがいいんだがと私は思った。

 
 
 はぁ。やっと帰れる。そう思いながらも私の心の中は嬉しい気持ちだ。
 放課後になり私はテンションが高くなった。なぜかというとやっと家に帰れるからだ。八方美人で作り笑いが当たり前の私にとっては家は楽で心地よい場所だ。学校は本当に疲れると私は心の底から思う。
 家に帰ったら何しようか。

「ねえねえ!琴乃!今日帰り、このカフェ行かない?」
 
 そう言ってきたのはこのクラスで一番仲が良い遠野桜子(とおのさくらこ)だ。昔、席が近くになったことでよく話すようになった。今では放課後カフェに行く仲だ。
 今日は真っ先に家に帰ってゆっくり過ごすつもりだったのに。

「いいよ!」

 もちろん八方美人の私が断れる訳もなく……。

「やった!じゃあ行こ!」
「うん!」

 カフェに行くことになった。