『ねぇ、知ってる?』
『あそこのスポットに夜になるとかっこいい人が座ってるらしいよ』
『それってもしかして快美の制服着てるっていう?』
そう。私の通うことになった高校の人がいるらしい。私のお気に入りの場所に。夜は行ったことないけど…。もし本当にいるのであれば、なんでいつも夜にあそこにいるのか聞いてみたい。
「みーう!心羽!何ぼーっとしてるの!課題やんなきゃ、入学式もうすぐだよ?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ。3日後でしょ?すぐ終わるって!」
実は入学式まで後3日しかないのに、課題が1つも終わっていない。結構やばいのはわかっているが、やっぱり気になってしまう。
「ねぇ瑠花。本当にあそこに快美の人がいるのかな。」
「まだそんなこと言ってるの?そんな場合じゃないでしょ!」
この子は中学からの親友の城井瑠花。髪が長くて儚くて、頭も私よりいい。文句の無い可愛い女の子だ。私とはまるで違う。私なんてずっと変わらないストレートボブに、制服だって着崩したことなんて1度もない。そのくせ勉強も全然出来なくて、中学では下から数えた方が早かった。
「やっぱ夜に行ってみようかな」
冗談で言ってみたものの、「馬鹿じゃないの!心羽は可愛いんだから危ない!」と叱られてしまった。
はて、私のどこが可愛いんだか。
ひと通り課題を進めて、私達はフードコートを出て、解散した。
「ただいまー」
「あら、おかえり。課題は進んだ?終わらないとか言うんじゃないよ?」
帰って早々、実は怖いママからのお話が…。
私のママ、めっちゃギャルみたいなのに、真面目で頭もいい。勝てる人なんているのってくらい強いらしい。
「わかってるよママ。課題の続きしてくるね!」
「あ、ちょっと待って。これ、持っていきなさい」
ママからお菓子とジュースを受け取って、自分の部屋に足を運ぶ。部屋に入って課題をやろうとしても、あの話が頭の中から離れない。
「本当にいるなら会ってみたい…。」
私の家の近くに、遠くの景色が綺麗な丘がある。暇な時や何かあって落ち込んだ時などによく行く場所だ。そこに夜になると人がいるとかなんとか。皆、遠くからしか見ておらず、噂話になっている。
お母さんに適当に嘘をついて行ってみようか…。私は夜になるまで課題を進めた。
午後6時。私は課題をやめ、ママのもとに向かった。ママはご飯の準備をしている所だった。
「ママー!ちょっと出てきていい?」
「どこいくの、こんな時間に…。」
「ちょっと近くの丘行ってくる」
心配そうにママは私を見ている。でも私の目の輝きに負けたらしい。「すぐ帰ってくるのよ」と言いながら、玄関まで送り出してくれた。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
外に出ると、だいぶ暗かった。スマホの光と街灯を頼りに丘へと進む。私の家は住宅街ってほどでもないけど家がたくさん建っていて、まだ明るい方だった。
「暗いな、帰り大丈夫かな」
心配になっている間に、丘に到着。もっと奥に進んでみると…。
「人?」
人が1人、ベンチに座っていた。よく近づいて見てみると、制服を着た男の人が座っている。
「制服着てる。やっぱりあの噂は本当なんだ…。」
私は近くに行くと、好奇心から座っている彼に声をかけてみた。
「あの。」
彼はビックリしたように後ろを振り向いて、私を見て驚いていた。私もびっくりするほど、彼は美しかった。快美の制服を着た美少年。
「えっと、?何でしょうか?」
声をかけられると思っていなかったようで、とても動揺していた。私は気になっていた事を、早々と質問した。
「なんでこんな時間にここにいるんですか?私もよく来るんです。夕方ですけど。」
「えっと…。ここに来ると、心が浄化されていく気がしてすっきりするんですよ。」
回答は私と似たようなものだった。私も落ち込んだり何かあった時、ここに来ると忘れてどうでも良くなる。
「似てますね。私も同じようなものです。」
私は彼をもっと知りたくなった。似たような理由で同じ場所に来るなら、少しでも気が合いそう。彼のことを聞こうとした途端、彼が口を開いた。
「あなたは、?俺は見ての通り、快美の温泉川蓮です。」
「私は小鳥遊心羽。私ももうすぐ快美に通う。」
「へぇ〜。後輩か。俺2年。」
まぁ。ここまでは想像通り。そりゃ制服着てるなら先輩だよね。私は温泉川って人をじっと見る。やっぱり、すごいイケメンです。やばいなこれは。
「イケメンってよく言われません?」
失礼なことを聞いている気がするが、何となく聞いてみた。温泉川はすぐに答えてくれた。
「まぁ、いつもキラキラした目で見られて、影でかっこいいって言われてることくらいなら。」
「影でなんだ…。」
この人の場合、あまり人の会話を聞くようなタイプではないらしい。言われてることに気づいてないのか?少し鈍感な部分もあるみたい。
「ところでこんな時間にこんな所にいていいのか?親御さんとか」
「大丈夫。ちゃんと言ってきたし、許可は取ってます。」
心配そうな顔で私を見ている温泉川とは反対に、私はうきうきわくわくしながら会話を続けようとしていた。
「そういえば、おうちこの辺なんですか?男とはいえ、未成年だし高校生だから遅くまでいるのは良くないんじゃ…?」
そう。補導対象だし、親御さんだって心配するだろう。それとも訳ありか。
「気にすんな。この辺っちゃこの辺だし」
あんまり深く探らない方が良さそう。きっと色々あるんだろうな。
今日はもう帰ろう。暗くなりすぎて帰り怖い気がするな…。
「帰るなら送ってくよ。女の子1人この暗さ、怖いでしょ。」
この人絶対モテる。さらっと行ってくれる人なかなかいないからね。優しすぎるんだよ初対面の人に!!
「えっと、ありがとう。助かる。」
お言葉に甘えて、家まで送って貰うことにした。
温泉川蓮。しっかり名前と顔を頭に覚えさせ、2人で私の家に向かって足を動かした。
「ここだよ。本当にありがとうございました。すごく暗いの怖かったから助かった」
「いーよ。もしまた夜来るなら同じ時間に来な。俺いると思うからさ。」
お礼を言って、時間を知らせてもらい、ここで解散した。私は来た道を戻っていく温泉川蓮を見えなくなるまで眺めていた。
「2年生の先輩。温泉川蓮…。かっこよかったな…。」
私はママに心配されると困るので、急いで家の中に入った。
「遅かったけど大丈夫だった?暗かったでしょ」
「大丈夫。丘で快美の人に会ってさ。家まで送ってくれて。」
「その人大丈夫!?やばい人とかじゃ…」
ママの気持ちはよーくわかるけど、温泉川蓮はそういう人じゃないとはっきり伝えた。するとママはびっくりした顔をして言った。
「温泉川!?快美!?まじっか、心羽、凄い人と会っちゃったね?」
「すごい人?そんな凄いの?」
ママの言ってることが理解できない。何、凄いって。確かにイケメンだけど。
「まぁ、そのうちわかるわよ!さ!ご飯食べましょ?冷めちゃう」
「うん…。」
私は心残りがあるまま、椅子に座り、私の好きなハンバーグを口に運び始めた。
それにしても何が凄いんだろう。もっと温泉川蓮が気になってくる。また明日、課題をやったら行こうかな。
「ママ。明日も同じ時間に行ってくる。」
「会いに行くの?」
「うん。」
気になるし、やっぱり夜の景色も綺麗だったからまた見たい。そっちが本命だったりして笑
ご飯を食べ終え、お皿を片してお風呂に入ろうと部屋に向かう。スマホを見ると、21時をまわっていた。急いでお風呂場へと向かい、お風呂に入った。
「………う!…う!!心羽!!!」
「ん…。ママ?」
「ママ?じゃないわよ。もう11時よ?早く起きないと学校行く時に辛くなるよ?」
私は寝ぼけながら時計を見る。もちろん時計の針は11時を指していた。びっくりした私は飛び起きてママの顔をじっと見つめる。
「もうしっかりしてよね〜?お昼ご飯早く用意するから何か食べに来なさいね」
困ったかのような顔をして、ママは私の部屋を出ていった。
それにしても11時…。よく寝たな。昨日はお風呂に入ってそれからよく覚えていない。多分疲れてお風呂を出た後、寝る用意してすぐに寝ちゃったんだ。学校じゃなくて良かった…。
「ご飯、食べに行かなきゃ」
私は重たい身体を無理やり起こして、お母さんの手作りご飯を食べにリビングへ向かった。
ご飯も食べ終わって、課題をやろうと思ったその時、机の上のスマホが鳴った。
「もしもし?瑠花?」
相手は瑠花からで、課題でわからないところがあったらすぐに言うことと、今日で終わらせることとハードな内容だった。この量を今日1日で終わらせるとか…。無理です。
「あのー。瑠花さん。今日でとは…?」
「そのままだよ。今日のうちに終わらせるの。明日は確認と準備の日にするんだよ!」
瑠花はしっかり者だから計画を立ててやっていくスタイルだから、私にはしんどい部分がある。けど、私のために考えて言ってくれているので、とても感謝してもしきれない。
「頑張ります…。」
瑠花に言われてしまったので、急いで課題を開き、シャーペンを動かす。課題は国数英の3科目あり、そのうちの国語は得意なので昨日終わった。英語がとてつもなく苦手なので、それが本当に終わる気がしない。
私はこのまま一生懸命手を動かし続けた。
「ちょっと休憩ー!!」
3時間が経ったところで、私の集中力が切れ、休憩をとることにした。さっきちょうどママがお菓子を持ってきてくれたので、それを食べることにしよう。
「これ美味いんだよね〜!!」
私が手にしたのは大好きな焼きプリン!これ、普通のプリンより好きなんだよね!美味しすぎてほっぺた垂れる〜!
大好きな焼きプリンの封を開けて、スプーンで口に運ぶ。するととても美味しい味が舌の上で広がった。
「〜!!!」
声にならない叫びを上げ、次へ次へと口に運ぶ。食べ終わる頃にはとても満足していた。
「ご馳走様でした!」
めっちゃ美味しかった〜!!もう1回食べたい。めちゃくちゃ。
満足したところで、私は残りの課題を広げた。さっき数学はわからないところ以外は終わったので、とりあえず英語に手をつける。選択問題が多かったので、私でもできそう。急いで英語を解き始める。
「これって確かこれとこれだったよね。」
「終わっっっ!たぁ〜!!」
課題が遂に終わった。外を見てみると、だいぶ暗くなっていた。今日は諦めるべきか。それとも行くべきか。とても悩みどころだ。
「どうしよう。ママいいよって言うのかな。」
ママに許可を取りにリビングへ向かう。
「あら。課題終わったの。お疲れ様〜」
「ママ!終わったから丘行ってきていい?」
「暗いわよ?危ないじゃない」
さすがにいい顔せず、引き止めてきた。と思ったのだが。
「まあでも丘にはきっと温泉川がいるのよね。いいわよ。なるべく早く帰ってきなね」
優しいいい母を持ったな、とあらためて思い、私はスマホを持って家を飛び出した。
しばらく暗い道を歩いていると、いつもの丘が見えてきた。いつものように奥へ進む。
「いた…。」
人影を見つけ、よく目を凝らしてみる。たしかに前見た影と同じだ。きっと、温泉川がいるんだろう。私は何も考えないまま彼の元へ向かった。それが間違いだったことはすぐに気づく。
「なんで消えるんだよ。いなくなったら俺はどうしたらいいってんだよ…。」
聞いてはいけない事を聞いてしまったと思った私は、その場で立ち尽くした。
しばらく立ち尽くしていると、温泉川が振り向いた。
「!?小鳥遊心羽!?なんで…」
びっくりしたように言う彼は今が何時かなんてわかってもいなかった。スマホを見てやっとわかったようで、彼は私になんとも言えない表情で言った。
「いつから、いたんだ?」
「えっと…。ちょっと、前から…。」
「てことは聞いてたな?ごめんな。かっこ悪い所見せちゃったな。」
怒られると思っていたので、私はびっくりして彼をガン見していた。この人はきっと器が広いのだろう。
「いや、あの、ごめんなさい。普通に聞いてしまったのは悪いことなので。でも、なにか、あったんですか。答えたくないならいいんです。ただあんなに悲しい表情してたから…。なんか、心配で。」
興味があるからとかではない。ただ、彼の表情に驚き、心配になってしまった。ただそれだけだ。何かあったのは間違いないだろう。
「気にすんな。なんでもないよ。小鳥遊さんに話したところで、帰ってこねぇし。」
?帰ってこない?なんだろう。彼は悲しい表情をしていたはずなのに、言葉はまるで針のように尖っていて、とても悲しそうには思えない。
でも、これ以上私が入る隙は無い。そう思った私は彼について聞いてみた。
「温泉川さんって何者なんですか?お母さんがすごい人って言ってたから」
「話したんだ俺の事。お母さんって幾つ?」
女性になんて言う質問…。と思ったが、私は何も気にせずに答えた。
「38歳くらいかな」
「すげ。親父と同じくらいだな。ならたぶん、お母さんが言ってるすごい人ってのは親父の事だろ。その息子だから凄いって事じゃないのか?」
「でも、そうだとしたら何者なの?お父さんは。」
その質問に、彼は顔を曇らせた。少し言いにくそうに、その口を開いた。
「暴走族だよ。全国1位の正統派暴走族。」
思わぬ発言に驚いたが、引くまでではなかった。
「引くだろ?暴走族なんて。俺は親父のことが嫌いなんだよ。な。実は。」
『あそこのスポットに夜になるとかっこいい人が座ってるらしいよ』
『それってもしかして快美の制服着てるっていう?』
そう。私の通うことになった高校の人がいるらしい。私のお気に入りの場所に。夜は行ったことないけど…。もし本当にいるのであれば、なんでいつも夜にあそこにいるのか聞いてみたい。
「みーう!心羽!何ぼーっとしてるの!課題やんなきゃ、入学式もうすぐだよ?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事しててさ。3日後でしょ?すぐ終わるって!」
実は入学式まで後3日しかないのに、課題が1つも終わっていない。結構やばいのはわかっているが、やっぱり気になってしまう。
「ねぇ瑠花。本当にあそこに快美の人がいるのかな。」
「まだそんなこと言ってるの?そんな場合じゃないでしょ!」
この子は中学からの親友の城井瑠花。髪が長くて儚くて、頭も私よりいい。文句の無い可愛い女の子だ。私とはまるで違う。私なんてずっと変わらないストレートボブに、制服だって着崩したことなんて1度もない。そのくせ勉強も全然出来なくて、中学では下から数えた方が早かった。
「やっぱ夜に行ってみようかな」
冗談で言ってみたものの、「馬鹿じゃないの!心羽は可愛いんだから危ない!」と叱られてしまった。
はて、私のどこが可愛いんだか。
ひと通り課題を進めて、私達はフードコートを出て、解散した。
「ただいまー」
「あら、おかえり。課題は進んだ?終わらないとか言うんじゃないよ?」
帰って早々、実は怖いママからのお話が…。
私のママ、めっちゃギャルみたいなのに、真面目で頭もいい。勝てる人なんているのってくらい強いらしい。
「わかってるよママ。課題の続きしてくるね!」
「あ、ちょっと待って。これ、持っていきなさい」
ママからお菓子とジュースを受け取って、自分の部屋に足を運ぶ。部屋に入って課題をやろうとしても、あの話が頭の中から離れない。
「本当にいるなら会ってみたい…。」
私の家の近くに、遠くの景色が綺麗な丘がある。暇な時や何かあって落ち込んだ時などによく行く場所だ。そこに夜になると人がいるとかなんとか。皆、遠くからしか見ておらず、噂話になっている。
お母さんに適当に嘘をついて行ってみようか…。私は夜になるまで課題を進めた。
午後6時。私は課題をやめ、ママのもとに向かった。ママはご飯の準備をしている所だった。
「ママー!ちょっと出てきていい?」
「どこいくの、こんな時間に…。」
「ちょっと近くの丘行ってくる」
心配そうにママは私を見ている。でも私の目の輝きに負けたらしい。「すぐ帰ってくるのよ」と言いながら、玄関まで送り出してくれた。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
外に出ると、だいぶ暗かった。スマホの光と街灯を頼りに丘へと進む。私の家は住宅街ってほどでもないけど家がたくさん建っていて、まだ明るい方だった。
「暗いな、帰り大丈夫かな」
心配になっている間に、丘に到着。もっと奥に進んでみると…。
「人?」
人が1人、ベンチに座っていた。よく近づいて見てみると、制服を着た男の人が座っている。
「制服着てる。やっぱりあの噂は本当なんだ…。」
私は近くに行くと、好奇心から座っている彼に声をかけてみた。
「あの。」
彼はビックリしたように後ろを振り向いて、私を見て驚いていた。私もびっくりするほど、彼は美しかった。快美の制服を着た美少年。
「えっと、?何でしょうか?」
声をかけられると思っていなかったようで、とても動揺していた。私は気になっていた事を、早々と質問した。
「なんでこんな時間にここにいるんですか?私もよく来るんです。夕方ですけど。」
「えっと…。ここに来ると、心が浄化されていく気がしてすっきりするんですよ。」
回答は私と似たようなものだった。私も落ち込んだり何かあった時、ここに来ると忘れてどうでも良くなる。
「似てますね。私も同じようなものです。」
私は彼をもっと知りたくなった。似たような理由で同じ場所に来るなら、少しでも気が合いそう。彼のことを聞こうとした途端、彼が口を開いた。
「あなたは、?俺は見ての通り、快美の温泉川蓮です。」
「私は小鳥遊心羽。私ももうすぐ快美に通う。」
「へぇ〜。後輩か。俺2年。」
まぁ。ここまでは想像通り。そりゃ制服着てるなら先輩だよね。私は温泉川って人をじっと見る。やっぱり、すごいイケメンです。やばいなこれは。
「イケメンってよく言われません?」
失礼なことを聞いている気がするが、何となく聞いてみた。温泉川はすぐに答えてくれた。
「まぁ、いつもキラキラした目で見られて、影でかっこいいって言われてることくらいなら。」
「影でなんだ…。」
この人の場合、あまり人の会話を聞くようなタイプではないらしい。言われてることに気づいてないのか?少し鈍感な部分もあるみたい。
「ところでこんな時間にこんな所にいていいのか?親御さんとか」
「大丈夫。ちゃんと言ってきたし、許可は取ってます。」
心配そうな顔で私を見ている温泉川とは反対に、私はうきうきわくわくしながら会話を続けようとしていた。
「そういえば、おうちこの辺なんですか?男とはいえ、未成年だし高校生だから遅くまでいるのは良くないんじゃ…?」
そう。補導対象だし、親御さんだって心配するだろう。それとも訳ありか。
「気にすんな。この辺っちゃこの辺だし」
あんまり深く探らない方が良さそう。きっと色々あるんだろうな。
今日はもう帰ろう。暗くなりすぎて帰り怖い気がするな…。
「帰るなら送ってくよ。女の子1人この暗さ、怖いでしょ。」
この人絶対モテる。さらっと行ってくれる人なかなかいないからね。優しすぎるんだよ初対面の人に!!
「えっと、ありがとう。助かる。」
お言葉に甘えて、家まで送って貰うことにした。
温泉川蓮。しっかり名前と顔を頭に覚えさせ、2人で私の家に向かって足を動かした。
「ここだよ。本当にありがとうございました。すごく暗いの怖かったから助かった」
「いーよ。もしまた夜来るなら同じ時間に来な。俺いると思うからさ。」
お礼を言って、時間を知らせてもらい、ここで解散した。私は来た道を戻っていく温泉川蓮を見えなくなるまで眺めていた。
「2年生の先輩。温泉川蓮…。かっこよかったな…。」
私はママに心配されると困るので、急いで家の中に入った。
「遅かったけど大丈夫だった?暗かったでしょ」
「大丈夫。丘で快美の人に会ってさ。家まで送ってくれて。」
「その人大丈夫!?やばい人とかじゃ…」
ママの気持ちはよーくわかるけど、温泉川蓮はそういう人じゃないとはっきり伝えた。するとママはびっくりした顔をして言った。
「温泉川!?快美!?まじっか、心羽、凄い人と会っちゃったね?」
「すごい人?そんな凄いの?」
ママの言ってることが理解できない。何、凄いって。確かにイケメンだけど。
「まぁ、そのうちわかるわよ!さ!ご飯食べましょ?冷めちゃう」
「うん…。」
私は心残りがあるまま、椅子に座り、私の好きなハンバーグを口に運び始めた。
それにしても何が凄いんだろう。もっと温泉川蓮が気になってくる。また明日、課題をやったら行こうかな。
「ママ。明日も同じ時間に行ってくる。」
「会いに行くの?」
「うん。」
気になるし、やっぱり夜の景色も綺麗だったからまた見たい。そっちが本命だったりして笑
ご飯を食べ終え、お皿を片してお風呂に入ろうと部屋に向かう。スマホを見ると、21時をまわっていた。急いでお風呂場へと向かい、お風呂に入った。
「………う!…う!!心羽!!!」
「ん…。ママ?」
「ママ?じゃないわよ。もう11時よ?早く起きないと学校行く時に辛くなるよ?」
私は寝ぼけながら時計を見る。もちろん時計の針は11時を指していた。びっくりした私は飛び起きてママの顔をじっと見つめる。
「もうしっかりしてよね〜?お昼ご飯早く用意するから何か食べに来なさいね」
困ったかのような顔をして、ママは私の部屋を出ていった。
それにしても11時…。よく寝たな。昨日はお風呂に入ってそれからよく覚えていない。多分疲れてお風呂を出た後、寝る用意してすぐに寝ちゃったんだ。学校じゃなくて良かった…。
「ご飯、食べに行かなきゃ」
私は重たい身体を無理やり起こして、お母さんの手作りご飯を食べにリビングへ向かった。
ご飯も食べ終わって、課題をやろうと思ったその時、机の上のスマホが鳴った。
「もしもし?瑠花?」
相手は瑠花からで、課題でわからないところがあったらすぐに言うことと、今日で終わらせることとハードな内容だった。この量を今日1日で終わらせるとか…。無理です。
「あのー。瑠花さん。今日でとは…?」
「そのままだよ。今日のうちに終わらせるの。明日は確認と準備の日にするんだよ!」
瑠花はしっかり者だから計画を立ててやっていくスタイルだから、私にはしんどい部分がある。けど、私のために考えて言ってくれているので、とても感謝してもしきれない。
「頑張ります…。」
瑠花に言われてしまったので、急いで課題を開き、シャーペンを動かす。課題は国数英の3科目あり、そのうちの国語は得意なので昨日終わった。英語がとてつもなく苦手なので、それが本当に終わる気がしない。
私はこのまま一生懸命手を動かし続けた。
「ちょっと休憩ー!!」
3時間が経ったところで、私の集中力が切れ、休憩をとることにした。さっきちょうどママがお菓子を持ってきてくれたので、それを食べることにしよう。
「これ美味いんだよね〜!!」
私が手にしたのは大好きな焼きプリン!これ、普通のプリンより好きなんだよね!美味しすぎてほっぺた垂れる〜!
大好きな焼きプリンの封を開けて、スプーンで口に運ぶ。するととても美味しい味が舌の上で広がった。
「〜!!!」
声にならない叫びを上げ、次へ次へと口に運ぶ。食べ終わる頃にはとても満足していた。
「ご馳走様でした!」
めっちゃ美味しかった〜!!もう1回食べたい。めちゃくちゃ。
満足したところで、私は残りの課題を広げた。さっき数学はわからないところ以外は終わったので、とりあえず英語に手をつける。選択問題が多かったので、私でもできそう。急いで英語を解き始める。
「これって確かこれとこれだったよね。」
「終わっっっ!たぁ〜!!」
課題が遂に終わった。外を見てみると、だいぶ暗くなっていた。今日は諦めるべきか。それとも行くべきか。とても悩みどころだ。
「どうしよう。ママいいよって言うのかな。」
ママに許可を取りにリビングへ向かう。
「あら。課題終わったの。お疲れ様〜」
「ママ!終わったから丘行ってきていい?」
「暗いわよ?危ないじゃない」
さすがにいい顔せず、引き止めてきた。と思ったのだが。
「まあでも丘にはきっと温泉川がいるのよね。いいわよ。なるべく早く帰ってきなね」
優しいいい母を持ったな、とあらためて思い、私はスマホを持って家を飛び出した。
しばらく暗い道を歩いていると、いつもの丘が見えてきた。いつものように奥へ進む。
「いた…。」
人影を見つけ、よく目を凝らしてみる。たしかに前見た影と同じだ。きっと、温泉川がいるんだろう。私は何も考えないまま彼の元へ向かった。それが間違いだったことはすぐに気づく。
「なんで消えるんだよ。いなくなったら俺はどうしたらいいってんだよ…。」
聞いてはいけない事を聞いてしまったと思った私は、その場で立ち尽くした。
しばらく立ち尽くしていると、温泉川が振り向いた。
「!?小鳥遊心羽!?なんで…」
びっくりしたように言う彼は今が何時かなんてわかってもいなかった。スマホを見てやっとわかったようで、彼は私になんとも言えない表情で言った。
「いつから、いたんだ?」
「えっと…。ちょっと、前から…。」
「てことは聞いてたな?ごめんな。かっこ悪い所見せちゃったな。」
怒られると思っていたので、私はびっくりして彼をガン見していた。この人はきっと器が広いのだろう。
「いや、あの、ごめんなさい。普通に聞いてしまったのは悪いことなので。でも、なにか、あったんですか。答えたくないならいいんです。ただあんなに悲しい表情してたから…。なんか、心配で。」
興味があるからとかではない。ただ、彼の表情に驚き、心配になってしまった。ただそれだけだ。何かあったのは間違いないだろう。
「気にすんな。なんでもないよ。小鳥遊さんに話したところで、帰ってこねぇし。」
?帰ってこない?なんだろう。彼は悲しい表情をしていたはずなのに、言葉はまるで針のように尖っていて、とても悲しそうには思えない。
でも、これ以上私が入る隙は無い。そう思った私は彼について聞いてみた。
「温泉川さんって何者なんですか?お母さんがすごい人って言ってたから」
「話したんだ俺の事。お母さんって幾つ?」
女性になんて言う質問…。と思ったが、私は何も気にせずに答えた。
「38歳くらいかな」
「すげ。親父と同じくらいだな。ならたぶん、お母さんが言ってるすごい人ってのは親父の事だろ。その息子だから凄いって事じゃないのか?」
「でも、そうだとしたら何者なの?お父さんは。」
その質問に、彼は顔を曇らせた。少し言いにくそうに、その口を開いた。
「暴走族だよ。全国1位の正統派暴走族。」
思わぬ発言に驚いたが、引くまでではなかった。
「引くだろ?暴走族なんて。俺は親父のことが嫌いなんだよ。な。実は。」
