【ピュア青春BL】幼なじみの君と、ずっとミニトマトを育てたい。

「光田くん!」

 家のドアノブに手をかけた時、呼び止められた。由希くんのフワフワな茶色い髪が風でさらっと揺れる。淡いイエローのアパートの壁と由希くんの白い長Tシャツが、昼の陽光に明るく照らされ輝いていた。それらに負けないぐらいに由希くんも輝く。

「光田くん、今日はありがとう。そして……」

 語尾が弱まる由希くん。顔を覗くと由希くんの目が赤く潤んでいた。由希くんの唇が小さく震え、モゴモゴつぶやく。

「えっ? 由希くん、どうした?」

 俺の声がうわずる。由希くんは目を伏せ、両手をぎゅっと握りしめた。肩が小さく震え、嗚咽が漏れ始めた。

「あのね……光田くん、僕……」

 由希くんは言葉を詰まらせ、顔を上げて俺を見た。その瞬間、ぽろっと涙が頬を伝って落ちた。

 俺の心臓がドクンと跳ねる。あの日の、きゅうりの苗を抜いてしまった時の由希くんの涙と重なって、胸が締め付けられるように痛んだ。俺は、また由希くんを傷つけてしまったのか? 何かした? 頭の中でぐるぐると考えが巡るけど、答えが見つからない。

「由希くん、泣かないで? 俺が何か嫌なことをしてしまったのなら、ごめん。本当に、ごめん」

 理由は分からないから、謝ることしかできない。同時に俺は慌てて一歩近づいた。だけど近づきすぎると余計に由希くんを困らせてしまうかもしれないと思って、足を止めた。由希くんは首を振って、Tシャツの袖で乱暴に涙を拭う。

「違うの、光田くん……えっ? 今、僕のこと、名前で呼んでくれた?」

 由希くんの言葉に、はっとした。焦りすぎて無意識に、昔みたいに「由希くん」って呼んでしまった。呼ぶことができた――。