春の昼下がり。
高校2年生になったばかりの私は、
友達と一緒に選択授業『日本史』を取った。

──特に興味はなかったけど、友達と同じなら、まぁいいかなって思った。

教室に入った瞬間、
見覚えのある顔が視界に飛び込んできた。

(……琉生くん!?)

整った顔立ち、ぱっちりした目。
スラッと高い身長。
廊下ですれ違うたび、つい目で追ってしまっていた人。

まさに『美』。
顔面国宝とはこのことだと思う。

しかも、琉生くんは噂でも「モテる」って有名。
もちろん、私のどストライクなタイプ。

──そう、私は超がつくほどの面食い。

どんなに疲れていても、イケメンを見れば元気になれる。
そんな救いようのない面食い女だった。

(まさか、琉生くんも同じ授業取ってたなんて……!)

心の中で大騒ぎしながら、座席表を見る。

──その瞬間。

「うそでしょ……」

思わず小さく声が漏れた。

ただのすれ違いだったはずの人と、まさか──
隣の席になるなんて。

(いや、心臓もたない……!)

ドクドクと鳴る鼓動を押さえながら、
必死に表情を整えた。

重たい教科書とノートを机に置きながら、思い切って声をかける。

「えっと、よろしくね。私、2組の桃瀬るるです!」

自分でもわかるくらいぎこちない笑顔。

だけど──

「桃瀬って言うんだ。俺、1組の雅弥琉生。よろしく」

ふっと、琉生が微笑んだ。

ぱっちりした目がやわらかく細まる。
一瞬で世界がふわっと色づいた気がした。

(やばい、かっこいい……)

あまりの破壊力に、私はポカンと口を開けたまま固まってしまった。

「……緊張してんの?俺、そんな怖くないけど?」

すぐ隣から、からかうような声。

胸が、ぎゅうっと締めつけられる。

「し、してないし!」

思わず強めに返してしまう私。

「ふーん」

いたずらっぽく笑う琉生。

(なにそれ、ズルい……絶対わざとでしょ!)

悔しくて、私は机に肘をつき、琉生をじーっと見つめた。

「ねぇ、そんなにイケメンでズルくない?」

からかうように言うと──

琉生は、ニヤリと口角を上げた。

「……そっちこそ、そんな顔して、反則だろ」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「え、私?」

「うん。……そんな、可愛い顔で見られたら、困るんだけど」

さらっと言いながら、
琉生が机越しにぐっと顔を近づけてくる。

あと少しで、鼻が触れそうな距離。

「……な、なに……」

慌てる私に、琉生はさらに近づいて、
低い声で囁いた。

「……からかうなら、覚悟しとけよ」

その目が、本気すぎて──
私は一瞬で顔から火が出そうになった。

そんなタイミングでチャイムが鳴った。

遅れて入ってきたのは、日本史担当の真島先生。

「おーい、遅れたわ。日本史担当の真島なー。あと、席このまま固定なー」

「えええ!?」

教室中がざわめく。

もちろん、私も。

(席替えなし!?)

(ってことは──琉生くんの隣、1年間!?)

心の中で叫びながら、そっと隣を見た。

琉生くんは、
いたずらな目で、また少し笑った。

まるで、「これからよろしくな」って。
そんなふうに、聞こえた気がした。

神様イケメンの顔を近くで拝めるのは嬉しいですが、心臓が持ちません……!