最期の晩餐

「いやぁ……。私に隼人のお父さんを託されましても……」

「あ、そうね。ごめんなさい。これじゃあ、『嫁に来い』って脅迫してるようなものよね。死にゆく人間の言葉って変に重みがあるから、軽々しく発しちゃだめよね。結婚云々は奈々未ちゃんと隼人が決めることだから、口を挟む気はないわ。でも、末永く隼人と仲良くしてやって欲しい。奈々未ちゃんといる時の隼人、凄く幸せそうだから」

 隼人のお母さんが、ゆっくり頭を下げた。

「イヤイヤイヤイヤ、こちらこそ‼」

 頭を下げられる展開になるとは思っていなかった為、どうして良いのか分からずに、隼人のお母さんより更に深く頭を下げると、

「そんなことより、昨日のお礼に何をしたらいい? 何でもいいわよ。貯金もわりとあるのよ、実は。欲しいもの、何でもプレゼントしちゃう。お金はあの世に持って行けないからね」

 ガバッと頭を上げた隼人のお母さんが私の肩を掴み、私の折りたたまれた上半身を元に戻した。

「気持ちだけで結構ですよ。お金は隼人と隼人のお父さんに残せばいい」

 隼人には『有り難く受け取る』などと言ってしまったが、そもそも患者さんから何かを貰うなんて規則違反だ。

「それじゃあ私の気が済まないわ。そんな寂しいこと言わないでよー」

 全然引かない隼人のお母さん。

「……じゃあ……」

 隼人のお母さんはこの日、私のお願いに応えた後に容態が急変し、深夜に天国へと旅立って行った。