最期の晩餐

 笑うことは、やはり身体が元気になるらしい。キツイ抗がん剤をやめたこともあり、隼人のお母さんは、失くしていた食欲を取り戻し、転院初日から一般食を平らげた。

 明るく、社交的な隼人のお母さんは、翌日には他の患者さんと仲良くなり、一緒に合唱をしたりボッチャをしたり、元気いっぱいだ。

「あんなに楽しそうに笑って元気にしてる姿を見ると、『母さんの病気、治ったんじゃないか』って勘違いしちゃうよね」

 お見舞いに来ていた隼人が、談話室で他の患者さんとトランプをしながら盛り上がっている隼人のお母さんを眺めながら呟いた。

「……そうだね」

「治療をやめたことで、母さんの命の期限は短くなってしまったかもしれないけど、俺はこれで良かったと思う。ずっと、病院で辛そうにしてる姿しか見てなかったから、あんなにいい顔で笑う母さんを見られて良かった。俺、母さんの転院を後悔することはないと思う。……父さんがどう思ってるかは分かんないけど」

 楽しそうにしている母親の邪魔をしたくないのか、隼人は談話室に入ろうとはせずに、母親の笑顔を焼き付けるかのようにじっと見つめていた。

「俺は、これでもう母さんの病気が治る可能性がなくなったことには納得がいっていないけど、母さんが納得してここを選んで楽しそうにしていることには、満足してる。あんな顔を見てしまったら、俺の納得なんかどうでもいいことだよな。母さんが納得してるなら、それでいい」

 仕事終わりの隼人のお父さんが背後からやって来て、隼人と一緒に隼人のお母さんを見つめた。