最期の晩餐

「私も作るけど、主に作るのは調理師さんだから。私は管理栄養士だから、献立作ったり、食材発注したり、栄養指導したり……他の仕事が結構あるんだよ」

 楠木さんの涙を、【何でもないこと】であるかのように、素気なく箱ティッシュを楠木さんの近くに置いた。

『大丈夫?』なんて言いながら、楠木さんの背中を摩って大事にしたくなかった。一般食が食べられなくなることを、【悲しいこと】にしたくなかった。

「忙しいんだね、管理栄養士って。……美味しいならいっか。ゼリー食だって何だって。でもさ、さすがにもうハンバーグは無理だよね。ハンバーグはゼリーに出来ないもんね」

 楠木さんが何事もなかったかのように、ティッシュで涙を拭きながら笑った。

「イヤ、あるよ。ゼリー食のハンバーグ」

だから私も、何事もなかったかのように話を続ける。

「え⁉ あるの⁉」

「うん。なんなら、ムースもある。ここのホスピスではムース食やってないけど、私が前に働いてた給食センターではムース食も作ってて、介護福祉施設とかに出してたよ、ハンバーグのムース」

「ハンバーグがムースに⁉ 何それ、ちょっと興味あるわ」

 ハンバーグがゼリーやムースになることに驚いた楠木さんの目から涙が引いた。