最期の晩餐

「それ、【のっぺ】じゃね?」

 楠木さんが着ていたカーディガンのポケットからスマホを取り出し、のっぺを検索して「これじゃね?」と見せてくれた。

「あら、美味しそうな煮物。新潟の人ってのっぺを煮しめって言うの?」

 食欲をそそる画像に、口内の唾液量が増す。

「おばあちゃんが新潟出身でよく作ってくれたんだけど、それがめちゃめちゃ美味しかった。ウチのおばあちゃんはのっぺって言ってたけどね。煮しめとは言ってなかったな」

「じゃあ、違うじゃーん‼」

 期待を瞬時に打ち砕かれ、思わずベンチから足を投げ出す。

「【ウチのおばあちゃんは】って言ったでしょうが。おばあちゃんに『新潟の一部でのっぺを煮しめと呼ぶ地域がある』って話を聞いたことがある。おばあちゃんが、友だちの家に遊びに行ったとき『夕飯煮しめでいい?』って聞かれて、お正月のあの煮しめを想像してたら、のっぺが出てきてちょっと驚いたってことを笑いながら話してくれたの覚えてる」

「じゃあ、それじゃん‼」

 体制を立て直し、「ナイス、楠木さん‼」と両手で楠木さんの手を握ると、

「喜ぶのは早いと思うけどなー。のっぺだとしたら、かなり大変よ? のっぺって、各家庭によって具材も作り方も結構違うらしい。かまぼこ入れる家もあればナルトのところもあるらしいし、煮物として出す家庭と、汁気を多くして汁物として出す家もあるらしいし。イクラは煮て白くさせるのか、後乗せで赤のままにするのかとか。里芋だけのトロミか、片栗粉を足すのかとか。あ、温かいまま食べる家と、冷やしてから食卓に出すところもあるらしい。おばあちゃんののっぺがあまりにも美味しいから、おばあちゃんに作り方を聞いたことがあるんだけど『これはあくまでもおばあちゃんののっぺであって、これがのっぺの正解か? って聞かれたら、私にも分からない』って言われたし」

 楠木さんが「まぁ、頑張れ」とニヤニヤしながら私の手を握り返した。