最期の晩餐

「…………煮しめでーす」

「さんざん焦らして煮しめかーい‼」

 森山さんが分かり易くズッコケた。

「よーしよしよし‼ 派手な煮しめ作ってやるぞ‼ 正月気分にさせたるぞ‼ まだ五月だけどな‼」

 林田さんがガッツポーズをしながら肩を回した。何度も作ったことのある料理名でホッとしたのだろう。

 そんな自信たっぷりの林田さんの煮しめだったが……。

「…………これ、煮しめですか?」

 翌日、岡村さんの元にオーダー食を運ぶと、岡村さんが器の中身を見て首を傾げた。

「……違いますか?」

「あ、ううん。いいんだいいんだ。妻が作ってくれた煮しめとは随分違うなと思っただけ。気にしないで」

 岡村さんはそう言うが、気にしないでいられるわけがない。ホスピスに入院中の患者さんの一食一食がどれほど大事なものなのか分かっているから。

「奥様の煮しめって、どんな感じのものなんですか?」

「多分郷土料理なんだと思う。妻、新潟出身だったんだけど、この煮しめにも入ってるけど、もっとたくさん里芋が入ってて、とろみがあって……あと何が入ってたっけな。とにかく具沢山で凄く美味しかったんだよ。妻が亡くなってから全然食べてないなーと思って。急に食べたくなっちゃってさ。頼んだ本人がうろ覚えの料理を作ってくれっていうのが無理な話だよね」

 岡村さんが、林田さんが綺麗に飾り切りした花の形の人参を箸に挟み、「凄く綺麗。でも、こんなに豪華じゃなくて、もっと質素な感じなんだ」と眺めると、一口食べて「この煮しめも美味しいよ」と申し訳なさそうに笑った。