最期の晩餐

「そっか。なるほど。そういう受け取り方もあるんだね」

 私と同じ感想を持った楠木さんが、クスリと小さく笑い、もう一口ハンバーグを口に入れた。

「……美味しい。本当に美味しい。懐かしい」

 うんうんと頷きながらハンバーグを味わう楠木さん。

「……私ね、癌になってもう治せないって言われた時、『まだ二十六なのに。何で私が?』って嘆いたし怒ったし絶望もしたんだけど、『でもこれでお母さんに会えるじゃないか』って、自分に言い聞かせてそういう気持ちを宥めてきたのね。私、お母さんのことが大好きだったからさ。やっぱり死ぬのは怖い。死にたくない。でもさ、向こうに行って、お母さんと再会して、時間に追われる生活から解放されたとしても、やっぱりお母さんにはこのハンバーグを作って欲しいなって思う。お母さんの味は、これだから」

 ライスや他のおかずには目もくれず、ハンバーグだけを黙々と食べ続ける楠木さん。

「もう少し、大きく作れば良かったですね。ハンバーグ」

 ホスピスにはなかなか思うように食べられない患者さんが多い。だから、食べられる患者さんにはモリモリ食べて欲しい。

「来週のオーダー食もこのハンバーグにして。死んでなかったらだけど」

 冗談っぽく笑う楠木さんの言葉は、冗談というわけではない。

 このホスピスの患者さんは全員、自分の命の期限が迫っているのを知っていて入院している。辛い治療をせず、苦しまずに穏やかに、QOLを上げた生活をしながら最期を迎えるのを目的とした人たちの場所だ。

 だから、楠木さんに「死ぬなんて言わないでくださいよー。頑張って生きましょうよ」と返すのは違う。ここは頑張って生きるのではなく、心地よく生きる所だから。

「じゃあ、来週はハンバーグ二段重ねにして爪楊枝の日の丸の旗でも立てちゃおうかな」

 悪戯っ子のように笑い返すと、

「楽しみにしてるわ。でも、さすがに二段は食べられないから一段でいいや」

 楠木さんが最後の一口のハンバーグを右頬に蓄えながらニカっと笑った。