最期の晩餐

「違うよー。昨日、なーんか体調悪くてね、二時間くらいしたら回復したんだけど、その頃にはもう夕食下げられちゃっててさー。夜、お腹が空いて我慢出来なくて、娘が置いていったカステラ貪り食っちゃったよー。食べたかったよー、鯖の味噌煮ー」

 下川さんが、しょんぼりと肩を落とした。

 私だって下川さんに鯖の味噌煮を食べて欲しかった。喜んでもらいたかった。

 悔しくて悔しくて、下川さんの病室を出た後、調理場へ急いだ。

 調理場に入ると、美知さんと森山さんいは目もくれず、林田さんへと一直線に向かう。

「林田さん、クックチルを導入しましょう」

「何回言えば気が済むんだ。しないって言ってるだろうが‼」

 やっぱり突っぱねられる。

「下川さん、昨日は具合が悪くて鯖の味噌煮を食べられなかったそうです。でも、二時間後には体調が良くなったそうです。当然その頃にはもう夕食は下げられている。下川さん、仕方なくお子さんの手土産のカステラを食べたそうですよ。ここは急性期病棟じゃないから食事の時間の融通は効くじゃないですか。クックチルなら食べたい時に解凍して食べられる。解凍するのに資格はいらない。誰がサーブしても問題ない。誰でも手軽に食べたい時に食べられるんですよ。ここには、患者さんが食べたい時に随時サーブして差し上げられるほどの人員がいない。作りたてを提供したい林田さんの気持ちは分かります。でも、ここはホスピスです。患者さんの平均余命は約三週間です。私たちの善意や好意を押し付けて患者さんのタイミングを逃すなんてことはあってはならない‼」

 林田さんを説得したい思いが余ってしまい、演説のようになってしまった。