最期の晩餐

「下川さん、一口も食べてない」

 鯖の味噌煮が丸々残っていた。

「体調良くなかったのかな? 箸をつけてないってことは、口に合わなかったってわけではないだろうしね。心配だね」

 美知さんが、眉間に皺を寄せながら鯖の味噌煮を見つめた。

「……そうですね」

 ホスピスは、積極的な治療をする場所ではないから、患者さんの病気が治ることはない。食べられなくなるということは、迫りくる死を感じて喉の奥がツンとする。

 翌日、気に掛かっていた下川さんの部屋へ訪問すると、

「小腹が減ったなー。今日の昼飯なぁに?」

 下川さんがお腹を摩りながら私に笑いかけた。私の心配を余所に、下川さんは元気だった。

 下川さんは、『この人、八十年間誰にも嫌われたことがないんだろうな』と思うくらいに、優しくて笑顔がチャーミングな可愛いおじいちゃんだ。

「今日は肉じゃがですよー。お元気そうですね、下川さん。昨日、鯖の味噌煮を残されてたから、どうしたのかなー? って気になってたんですよ。もしかして、生臭かったですかね? ごめんなさい」

 きっと臭いが原因で食べられなかったのだろうと、下川さんに両手を合わせると、