最期の晩餐

「ちょっと電話してきまーす」

 今日も笑顔の森山さんが、スマホを片手に部屋を出て行った。

「ちょっと歯磨き行ってきまーす」

 何の気なしに私も席を立ち、森山さんを追うように小部屋を出た。

 職員トイレに行こうと通路を曲がると、誰かと電話をしている森山さんの背中が見えた。

「ごめんねー。やっぱりお母さんは一緒に行けないわ。有休、取れそうにないもの。みんなで旅行楽しんできて。お土産、期待してるね」

 盗み聞きをしようと思ったわけではないが、森山さんの会話が耳に入ってしまった。察するに森山さんは、仕事の為に家族旅行を断ったのだろう。

 明るい声で話していた森山さんが、電話を切った途端に「はぁ」と残念そうな溜息を吐いた。

「森山さん。ごめんなさい、立ち聞きしてしまいました。旅行、行ってきてください。有休は労働者の権利です。遠慮せずに使うべきです」

 聞かなかったことになど出来なくて、思わず森山さんに声を掛けた。

「あらららら。聞かれちゃってたのね。行きたいのは山々なんだけど、前に働いてた社員さんが旅行に行こうと三日間の有休を取ろうとした時にね、林田さんが『アンタは健康で元気なんだから、旅行なんかいつでも行けるだろ。ここにいる患者さんは余命あと僅かなんだよ。そんな患者さんの食事を何だと思ってるんだ‼ 蔑ろにするんじゃない‼』って激怒して……。そんなこと言われたら、何も言い返せないよね」

 森山さんが切ない顔をしながら笑った。